日本基準との主な相違
日本基準とIFRSとの相違は多岐にわたりますが、特に業績に大きな影響を及ぼすと考えられる事項として以下が挙げられます。
(1)「のれん」償却
企業結合によって生じた「のれん」について、日本基準では20年以内で償却することが必要ですが、IFRSでは償却する必要はありません。そのため、IFRSでは各年度の償却負担がなくなる分、利益が出やすくなります。一方で、対象事業が不調となり「のれん」に減損処理が必要になった場合、従来償却が行われていない分、多額の減損損失が一時に生じることになります。M&Aを活発に展開する企業にとっては業績に大きな影響を及ぼすものと考えられます。
(2)収益の総額表示と純額表示
日本基準では総額表示及び純額表示に関する具体的な判断基準はなく、実務慣行にしたがって処理されています。IFRSでは、当事者本人として重要なリスクを負担して実施する取引は総額表示とし、実質的な代理人として重要なリスクを負担しない取引は純額処理としています。一般的に、商社における口銭取引や流通業における消化売上は純額処理になる可能性が高く、これらの企業にとっては業績に大きな影響を及ぼすものと考えられます。
(3)減価償却
日本基準では減価償却方法の選択が認められており定率法を採用する企業が多くなっています。IFRSでは資産の経済的便益の消費パターンを減価償却方法に反映させる必要があります。そのため、定率法による償却が経済的便益の消費パターンと整合していることを説明する必要があり、場合によっては、償却方法を定額法に変更するケースも考えられます。
(4)減損
日本基準では減損の兆候発生の判定、割引前見積将来キャッシュ・フローと帳簿価額の判定と言う2段階のステップで減損損失の要否を決定します。IFRSでは減損の兆候発生の判定という1段階のステップで減損損失の要否を決定します。日本基準において、割引前見積将来キャッシュ・フローと帳簿価額の判定(2段階目の判定)で、減損損失不要としていた資産についても減損損失の対象となる可能性があり、固定資産を多額に保有する企業にとっては業績に大きな影響を及ぼすものと考えられます。
(5)従業員給付
IFRSでは累積型有給休暇について、期末時点の未使用の権利の結果として企業が追加的に支払うと見込まれる金額を有給休暇引当金として計上することとしています。日本の会計慣行にはない引当金であり、日本の有給休暇制度を適切に反映した引当額を見積もる必要があります。
(6)株式報酬
日本基準では有償新株予約権の会計処理は「ストックオプション会計基準」の適用外と解釈されています。IFRSでは、取引の実質を踏まえ有償新株予約権であっても持分決済型株式報酬取引として株式報酬の規定が適用される可能性があります。多数の有償新株予約権を発行している企業にとっては、多額な株式報酬費用が発生し業績に大きな影響を及ぼす可能性があります。