ストック・オプションの立場別設計(上場企業)

上場企業におけるストック・オプションに対するニーズと設計例

2006年5月に会社法が施行されて以降、ストック・オプションは報酬として位置づけられることになり、費用処理が必要となりました。
また、2010年3月決算企業の有価証券報告書の開示から、役員報酬に係る開示制度が改正され、役員報酬の内訳を開示することが求められるようになりました。そのことで、従来以上に役員報酬の内容及び金額の適正性に関して、株主・投資家へ役員報酬体系の説明が必要となりました。
さらに、2015年6月から適用開始となったコーポレートガバナンス・コードにおいて、役員報酬について現金報酬と自社株報酬との割合を適切に設定すべきこと等が定められ、これらに対する取り組みを株主・投資家へ説明することとなりました。
そこで、現金による役員報酬のみならず、インセンティブプランとしてのストック・オプションを発行し、役員報酬の構成自体を見直す例が増えております。
また、従業員等に対しても会社の資金負担が不要なインセンティブプランとしてストック・オプションを発行する例が増えております。
以下は、上場企業におけるストック・オプションに対するニーズと設計例であります。

設計例1【役員退職慰労金の見直し】

(ニーズ)
昨今役員退職慰労金制度を廃止している企業が多い中、インセンティブプランであるストック・オプションにて代替したい。
(設計)
権利行使を役員の退任時に限定した、権利行使価格が1円である株式報酬型ストック・オプションを発行した。
(効果)
将来の株価の変動によって最終的な報酬額は変動するが、株式を実質的な退職金として受け取ることができるようになった。また、受け手側では退職所得としてのメリットも享受できた。

設計例2【役員賞与の見直し】

(ニーズ)
役員賞与を資金負担のないストック・オプションで支給することを検討したい。
(設計)
権利行使までの期間を短期間に設定した、権利行使価格が1円である株式報酬型ストック・オプションを発行した。また、税務上の損金算入要件をみたすため、事前確定届出給与の手続を行った。
(効果)
株価の上昇が追加的な賞与となった。また、発行企業側でストック・オプションの費用化額を損金に算入することができ、税メリットが得られた。

設計例3【従業員への付与】

(ニーズ)
企業価値の向上を意識して従業員にも業務を実施して欲しいと考えストック・オプションを導入したいが、従業員に負担の無い制度で実施したい。
(設計)
税制適格要件を満たした通常型ストック・オプションを発行した。
(効果)
株価の上昇分が従業員への報酬となった。また、税制適格要件を満たしたことで、権利行使して得た株式を譲渡するまで課税が繰り延べられた。

設計例4【株価下落への対応】

(ニーズ)
過去にストック・オプションを発行したが、権利行使価格が株価と大きくかい離してしまったまま整理できずにいる。(当社は会計基準としてIFRSを採用している)
(設計)
予め行使条件として、株価が一定額以上下落した場合には、会社が無償で取得できる条件を付したストック・オプションを発行した。
(効果)
株価の下落がストック・オプションの喪失というスキームが株主に受け入れられやすくなった。また、IFRSではストック・オプションの評価単価に株価条件を反映させることから、当該条件を付していないストック・オプションより評価額が小さくなり、結果として費用計上額が少なくて済んだ。


消却条件とは、権利確定日までの間に消却条件株価を一度でも下回ると、会社がその新株予約権を無償にて取得し、消却できるものとする条件をいいます。

具体的数値例

次の通りの諸条件にて、ストック・オプションを発行すると、その評価額は以下の通りとなります。

これに、次の通り追加条件を設定し、モンテカルロシミュレーションにて評価すると評価額は以下の通りとなります。

上記の数値例によると、追加条件を設定することで、結果として評価額を24.2%低くすることが可能となります。

(注)IFRSや米国基準では、ストック・オプションの評価単価に株価条件を反映させるよう定められていますが、日本基準では株価条件について、評価単価ではなく権利行使見込数に反映させることとされています。

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